今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」
白い霊
私が旅行のために乗っていた電車が急に止まったので、最初は誰かが緊急チェーンを引っ張ったに違いないと思いました。
動揺した私たちは立ち上がって、動かなくなった列車の窓から頭を出すと、ほとんどの乗客が外にでており、とても混雑していました。
まもなく警察が現場に到着しました。
どうやら誰かが線路を横切り電車にはねられたようです。場所は目的地の一つ手前の駅、バハラムポア駅でした。
遺体がまだそこに横たわっていたと誰かが言ったので、私も探して見てみようとしたとき、誰かが私の手をしっかりとつかみました。それはコルカタから4時間、ずっと話しをしていた人でした。
「死体には何も見るものはない。大量の血と切断された手足しかありません」と、また、「死体はあなたをとても怒らせるでしょう。」とも彼は言いました。
それを聞いて私はこの好奇心を抑えて、見に行くのをやめました。
夕方4:30ごろにバハラムポアで降りることになってしまったのですが、仲のいい旅行仲間がバハラムポアにも行くと言っていたので、私はこの辺唯一の移動手段であるバンを借りることにしました。
私たちは旅の最中話しをしながら楽しく過ごしました。時には政治について、時には現在の教育制度について、時にはインドの貧弱な交通インフラで起きる交通事故について。しかし、私はその間もあの死体に気を取られてしまいました。誰が命を失ってしまったのかと私は考えていたのです。私は26才でまだ若く、人生には見るべきものがたくさんあるけれども、死ぬ、ということについては考えたくなかったのです。
そして、友人は週末に私を自分の家へ招待してくれました。コルカタのガチャガチャした雰囲気や雑踏からから逃れ、単調な日常生活を忘れる素晴らしい時間を過ごせそうです。
友人の家に着いた私は、事故についても、乗り心地の悪いバンで長時間走ったことについても何も言わないことにしました。実際、私はあの古いバンでの旅を楽しんでいたのです。列車での事故を除けば、本当に旅行は楽しかったのです。わざわざ悲しいことを話して友達を悲しませたくなかった。招待してくれた私の長年の友人であるアンクシュはとても良い人で、彼の母親は私のためにたくさんの料理を作って待っていてくれたのです。その晩を台無しにしたくはありませんでした。
私は都会に住んでいたので、彼らは私が電気のない田舎の家に慣れるのが難しいのではないかと心配していましたが、私は屋根に座って美しい星月夜を眺めたり、ココナッツミルクを飲み、新鮮な野菜や果物を食べ、彼らの話を聞くのを本当に楽しみました。彼らの話すベンガル語はとてもネイティブな発音で、私と離す言葉とは違っていました。
彼らは私にどんどん質問をしてきます。私の仕事、家族、そして私自身について、もちろん私はそれにも喜んで答えしました。彼らは特に私が作家だと聞いて喜んでいるようでした。作家といっても、対して名も売れていないので気恥ずかしくなっていると、アンクッシュが助け舟を出してくれました。
するとその日の午後、アンクシュの友人の一人が18歳の少女が死亡した事故について話しはじめたのです。
アンクシュは私に「君が乗ってきた電車だと思うのだけれども、何も見なかったのか?」と聞くので、仕方なく私は知っていることをすべて話し、なぜ黙っていたのかを説明しました。
しかし驚くことに、彼らにとってはそれが普通の出来事であるようで、ケラケラと笑いながら事故について話しているのです。
アンクシュに聞くと、確かに事故は珍しいことではなく、彼らは鉄道事故にすっかり慣れているそうです。
私はそれ以上会話に加わらず、彼らが話していることだけをを聞いていると、アンクシュは私に微笑みかけ、私に怖がっているのかと馬鹿にしたように言うのです。
これを聞いて私は腹が立ってしまいました。私の心や考えを馬鹿にされるいわれはないからです。
アンクシュの友人の一人ブワンは私に「なら今から事故現場に行ってみるか?一人でも見てくることができるなら、怖がっていないってわかるから。」と言ってくるので、ついつい私も、できる、と返事してしまいました。
さっそく私たちは事故現場に向かいます。彼らは私に少女が亡くなった場所まで歩かせようと、わざわざ少し離れた場所に連れてきました。あたりは真っ暗で、星の光と薄い月明りだけで照らされ、ほとんど見えませんでしたが、信号だけが赤く光っています。
アンクッシュはやはりやめたほうが良いのではないかと言っていたのですが、私は行くことにしました。私には、ちっとも面白いことではなかったのですが、私は彼らに本当に勇敢な男で、この愚かな挑戦を受け入れることができることを示したかったのです。
石があちこちに散らばっていて、暗闇の中を歩くのはとても大変です。歩いていたら汗をかいて来ましたが、私はこの挑戦に勝たなければならないのです。
突然私が向かっている先に、影のような白い物体が揺れているのが見えました。びっくりしてちょっと立ち止まりましたが、幻覚に違いないと思い、また前に進みます。でも今では、その白い影ははっきりと見えています。それは白い服を着た人でした。そして何かをしているようでした。これは誰だ?錯覚か?…様々な可能性が頭をよぎり、背筋がゾッとした。すると誰かがトンっと私の肩に手を置いたので、私はショックで死にそうになり、息を止めて目を閉じました。
暗がりの中で、私の後をついてきていたアンクシュでした。そして彼は私が見ているものを見たのです。
近づいてみると、老人がその場所を水でぬぐっています。少女の遺体などは何も残っていませんでした。
「エト・ラクト!血が!」と彼は何度も何度も静かに独り言を言っていました。
実は彼は駅長で、25年前に同じような事故で息子を亡くしていたのです。寒い夜、彼の息子は警官に追いかけ、線路内に立ち入ったところ、何の前触れもなく電車が通り過ぎ、彼の遺体はバラバラになり、線路は血にまみれてしましました。
この悲しい出来事の後、駅長は完全に狂ってしまい、息子がなくなったことや事故をすべて消すように、毎晩毎晩、線路の上に流れたであろう、彼の息子の血を水で流そうとしていたのです。