魔女の雫

世界の怖い話を紹介する怪談ブログです。 紹介しているお話は全て実話。眠れない長い夜にでもお楽しみください。またあなたの体験した怖い話を募集しています。投稿はwitch-shizuku@gmail.comまで。

ノック(インド)

ノック

India


2011年はとても涼しく快適な気候で、私たちの住むプネーの暑くて埃っぽい夏から解放されました。ロナバラはプネーから約90キロ離れており、特にこの時期は観光客の避暑地でもあります。緑豊かな渓谷には小川が流れ、風光明媚な環境です。歴史的な古い仏教の洞窟もあります。トレッカーなら、近くにあるラージマチ、ロハガド、ビサプール、ティコナなど、いくつかの山へのトレッキングを楽しむこともできます。

 

私がロナバラに行くようになったのは、父がタタ電力会社で働いていた80年代からで、約5年間続いています。このタタ電力会社の保養地には一番大きなバンガローがありました。コロニアル様式で建てられた、2000平方フィートの広大なバンガローで、家の前には美しい芝生が、後ろには使用人宿舎として使っている離れがありました。とてもフレンドリーな人達で、この場所には良い思い出ばかりなのですが、私が初めて超常現象を体験した場所でもあります。

 

7月に、妻と私は仕事で忙しい1週間を過ごした後、週末を家でのんびり過ごす予定でした。金曜日の午後6時頃、私のいとこのパラガから電話がかかってきました。

パラは今もロナバラに住んでおり、現地で接客業をしています。久しぶりに彼から便りがあって驚いのですが、いつもの挨拶を交わした後、彼は現在、ロナバラの古い土地をリゾート地に開発する際に友人を助けている、リゾート地は2週間後にオープンする予定なので、ぜひ私に来てもらって一緒にそこで1日過ごさないかということでした。

 

かなり魅力的な申し出だったので、妻と私はすぐに荷物をまとめ、私の家から車で数時間のロナバラに向かいました。午後8時半頃、まだオープンしていないリゾートに到着すると、パラガが温かく迎えてくれます。その時は雨が激しく降っていましたが、パラガが私たちに出してくれた熱いお茶と、熱々のパコラは、とても満足がいくものでした。

india sweets & spices/mix pacora

パラガによると、リゾートの作業はほとんど完了しており、あとはいくつかの仕上げ作業が残っているだけだそう。この日のロナバラは午後から激しい雨が降っていたので、彼は作業員たちを休みにしていました。パラガが案内してくれたリゾートは、とても趣味のいい装飾でした。英国植民地時代に設計されたかのように、ノスタルジックな雰囲気が漂っています。

このことをパラガに話すと、実はこれはまさに30年代初期にイギリス人ゲストのために建てられたゲストハウスで、元の建築にあまり手を加えず、古い時代の魅力を感じられるようにしたのだそう。

 

リゾートのハイライトは3つのスイートで、この夜そのうちの1つを私たちが利用してもよいことになっており、妻と私は、古き良き時代を追体験できることに、とてもワクワクしていました。パラガと昔の話や以前体験した冒険などについて話したり、リゾートスタッフによる素敵な夕食を食べたりしたのですが、あのスイートを利用できることが楽しみで、あっという間に時間が過ぎたように感じたほどです。

夕食後、私たちはゆっくりと自分たちの部屋で夜を過ごしましたが、そのころにはもうすっかり真夜中をすぎていました。

 

3.00時ごろドアをノックする音がかすかに聞こえました。妻は私のそばでぐっすり眠っているし、外の芝生から音がしているのかもしれないと思い、最初は無視して寝ることにしました。すると15分ほどして、またドアをノックするかすかな音が聞こえるのです。今度は間違いなく誰かがドアをノック音でした。妻の起こしたくなかったので、私はゆっくりとベッドから出てドアを開けます。しかし驚くことに外には誰もいなかったのです。

 

翌朝の朝食のとき、私は昨夜のことをパラガにさりげなく聞いてみると、なんとこのノックオンを聞いたのは、私たちが初めてではありませんでした。数週間前に来た友人と彼の妻が同じ部屋に泊まっていたときにも、ドアのノックを聞いたそうなのです。

 

こんなことが2度あったので、私たちはこのノックの謎について調査し、リゾートの開業式の前には解決することにしたのです。

 

妻は昨日のリゾートで余韻を楽しんでおり、昨晩の異変や私の様子に気付いていないようだったので、私たちだけで調査をすることにしました。

 

パラガはリゾートの仕事のために私が必要だ、妻にうそをついて、近くにあるパラガの家に妻を避難させました。

 

もう土曜日の朝で、私たちは日曜日の夕方までに、家に戻らなければならなかったので、調査するには、もう1日しかありません。私たちはすぐに、倉庫に保管されていた古い文書を調べて、以前この場所を誰が所有していたかを知ることにしました。

 

すると30年の初め、ここはジョン・スコットという名のイギリス人が所有していた、ということが分かりました。彼はイギリス陸軍の将校がよく訪れる小さなゲストハウスを、奥さんと一緒に経営していたようです。また、次のような古い記事も同時に発見しました「ゲストハウス経営者と妻の謎の失踪」。記事によるとこの失踪事件は未解決のままになっていたようです。

 

また、そのゲストハウスは失踪事故以来、インド独立まで使われておらず、競売にかけられていたことも分かりました。つまりパラグと友人がそのゲストハウスを購入して再開発しようとするまで、事件があった後からそのまま残されていたのです。さらに探してみるとスコット夫妻の古い写真も見つけました。写真をよく見ると、彼ら夫婦が写真を撮った場所は、前の晩に私たちが寝ていた部屋です。

 

そこで私たちは疑問が浮かびました。

 

もしそれが幽霊ならば、なぜドアをノックしたのか?

 

午後2時頃になっていたので、パラガと私は昨夜の部屋に入って、手がかりを探してみることにしました。パラグは、植民地時代の魅力を残すために、部屋の中の物は何も傷つけないように特別に指示したそう。そこで私たちは特に手を入れていない場所を注意深く探したのですが、何も見つかりません。

仕方なく捜索を中止して、そこで一夜を過ごすことにしました。この部屋での奇妙な出来事を解明するには、これが最後の手段だったのです。

 

私は妻に、リゾートでの仕事がまだ終わっていないと伝え、妻には今晩パラグの家で過ごすように言いました。彼女は何か不審がっていたようですが、幸運にもあまり深く追及しては来ませんでした。

 

私たちは午後9時頃に夕食を食べ、その後は部屋で待つことにしました。しばらく部屋でおしゃべりをしていたら、二人とも眠くなって、うっかり居眠りしてしまいました。すると突然ドアがノックされた音で目が覚め、すぐにパラガを起こします。

 

起きると部屋全体が暗くなっていることにも気がつきました。これはおそらく、この地域でよく起こる停電のためです。私たちは万一に備えてランタンとろうそく、2本のステッキを準備していました。ロウソクとランタンをつけると、ある程度ではありますが、室内は明るくなりました。

 

さて問題は、誰がドアを開けるのか?、ということです。私は前夜の不気味な体験をしたばかりだったので、絶対に開けたくはありませんでした。するとパラグが勇気を奮い起こしてドアを開ける、と申し出てくれました。

それから私は部屋の片隅に落ちているロープをドアの取っ手に結び付けて、ドアを開けることを思いつきました。パラグは掛け金を開け、私がロープを手に持って座っている部屋の隅にすばやく戻り、ゆっくりとドアを引いて開けていきます。

 

外は静まり返っており、やはり何の気配もありません。二人とも次に何が起こるか身震いしていると、誰もいないはずの部屋を歩きまわる音が聞こえるのです。すると、ろうそくの明かりの中で、ぼんやりと床に影が二つできているのが見えました。一人は男の影で、もう一人は女の影です。

 

パラグも私も完全に身動きがとれなくなりましたが、混乱はしておらず、冷静にその現象を見つめていました。

 

2つの影はゆっくりと浴室に入っていったので、私たちはランタンを手に、彼らの後ろに静かに付いていきました。バスルームの一番奥にあるバスタブに影がうつり、影はその場所にしばらく残っていたのですが、やがて消えていきました。ドアを開けてからずっと、部屋の中のとても寒かったのですが、2つの影が消えた後、気温が戻り始めます。

 

私たちは二人ともおびえており、お互い気持ちを整理するのに30分程かかりました。が、この霊が私たちに危害を加えようとしていないのは明らかでした。バスルームで彼らは何をしようとしていたのか、それが不思議だったのです。

Shadows

パラグは翌朝、何人かの作業員に部屋のバスルームを掘らせることにしました。バスタブも取り外し、掘り進めると、そこに私たちが必死に探していた答えがありました。湯船があった場所の真下に、男と女の2体の骸骨が埋められていたのです。幽霊たちは私たちをこの場所へと導いていたのでしょう。

 

パラガの友人をリゾートによび、昨晩のことを話すと、彼はとても協力的で、すぐに警察に通報してくれました。鑑識の結果、骨格は少なくとも70年から80年前のもので、イギリス人夫婦ががいなくなった時期と一致していました。

 

昔の事件であり、操作すべきことももはや残っていなかったので、警察は未解決のまま、その事件を処理していました。パラガの友人は、リゾートが正式にオープンする前に事件が発見されたことを喜んび、バスルームをきちんと修理し、部屋を再び魅力的な状態に戻しました。

 

しかし、スコットに何が起こったのかはまだわかっていません。犯人はスコットに近い人物だったかもしれまんし、犯行内容と、ほぼ1世紀にわたって遺体がきちんと隠されていたことから判断すると。誰が犯人なのかは永遠に未解決のまま終わるのでしょう。いずれにせよ、夫婦の遺体は墓地に運ばれ、きちんと埋葬されました。

 

私が今日まで不思議に思っているもう一つのことは、初めの夜に影が見えなかったことと、私たち以外にパラガの他の友人夫婦が、たまたまあの部屋に泊まったということです。

 

妻は私たちが話を最初から聞かさなかったことに驚き、少し怒っていましたが、最終的には許してくれました。

 

パラガはリゾートがオープンしてから1ヶ月くらい経ってあと、またあの部屋をチェックしましたが、遺体を埋葬した後からは、何も事件は起きませんでした。もしかすると、二人の魂を安らげることが必要だったのかもしれません。

 

 このお話はこちらの記事でさらに詳しく解説しています。

ghost-witch-shizuku.com